これまで内部留保にも努め、手元資金をある程度持っている企業は、速やかにローコスト経営を徹底しよう。これは少々売上が下がっても、扱い商品の売価が下がっても、利益を出し続ける会社となることだ。赤字転落をしない会社でいることだ。当分円高の持続と市場の縮小がはっきりしているのだから、得意先やお客様の動向を冷静に見て、急いで売上高の減少予測を厳格に行おう。以下対応策を列挙する。キーワードは「スピードと実行力」。
ローコスト経営の具体的な方法は次のものがある。
読むとすぐ読み終わるのだが、経営数字が動くまでこれらをやり抜くのはかなり大変である。腹を据えてじっくり取り組んで欲しい。
@本業を徹底的に掘り下げ、得意な分野で攻め、社内の改良・改善力をスキルアップする。
A設備投資などのプロジェクトは、投資目的と目標回収期間内に投入したコストに見合うだけの効果が得られるかを厳格に再検討し、継続するのか、先送り(様子見)するのか、中止するのかという意思決定を迅速にしよう。新事業や製品等の開発案件は、トータルで費用負担の少ない方を選びたい。
B既にどこでも実施していることだが、即効性のある経費削減は継続する。これをチャンスとして、経費削減の力を極めて尽くして欲しい。効果のありそうなものは即採用して試してみる。例えば、「不要不急な出張は控えよう」など、いろいろ探してみよう。
C販売促進費など(接待交際費・広告宣伝費を含む)は、いたずらに絞るというのではなく、有効性のあるものにメリハリをつけよう。それに費用と効果測定の仕組みを再構築するチャンスでもある。
D赤字店舗の閉鎖のように、今をチャンスに不採算取引を見直し、継続するのか、先送り(様子見)するのか、停止するのかという意思決定をしよう。
E商品数の妥当性、在庫の回転率の妥当性(適正在庫の見直し)、取引先の妥当性、絞り込みの効果なども検証しよう。在庫の圧縮では、どこで在庫が対流するのかも調べよう。
F我が社に妥当な人件費水準を考えよう。人員数は妥当か、給与に対し仕事の質・量は適正か、階層の分業は適切か、間接部門人員は適正か、賞与は成果と連動する要素があるかなど、チェックすることはたくさんある。
G円高を原材料費や燃料コストの低減に結びつけよう。
Hこれらを行いながら、企業の持続・永続のための商品開発や技術開発も続け、次世代につながるものを生み出し、企業を安定させる努力を忘れぬことだ。
【対策2:倒産レベル】
ここで倒産レベルに陥ってしまうと、実効性のある対策が取れるのかどうかは正直疑問でもある。昨年後半からだが、たまたま相談される内容は、コンサルタントとして見るともう手に負えない企業が多い。自覚症状がありながら、このように悪化するまで孤独に追い込まれていく経営者にはかける言葉が見つからない。結果はともかく、常に相談できる人を持っていただきたいと思う。
このレベルの企業に限らず、まず血液に相当する資金状況を常に把握していること。今後2年分の経費の支払い予定や借入の返済予定表を作成し、すぐ確認できるようにしておく。厳しく見込んだ売上予測に対し、不足する資金の金額を把握し、輸血が必要であれば金融機関から調達できる金額と個人で調達できる金額を大枠で把握し、それでも不足する金額は具体的にいくらとなるのかは最低限認識していて欲しい。
(1)衰退する企業経営者に見られる特徴
@自分だけが良ければ、自社だけが儲かればという独善的な我欲が強い。
Aすぐに儲かるものを場当たり的に探す。
B関わる人(社内外を問わず)を信じない。わがままが強い。
C取引先(利害関係者)とのつながりはモノ・金・打算中心。何かあるとすぐ責任転嫁。
D本音と建前の使い分け。二枚舌。自分の言葉に責任を持たない。
(2)黒字転換へのポイント
@ 我社が倒産してこの世からなくなると、本当に困る人達がある程度いる。
A 金融機関・取引先や親族から支払い猶予、資金支援が得られる。
B 不採算部門や事業からの計画的な撤退・切り捨てができる。
C 販売は現在市場の徹底した深耕をする営業担当がいる。
E生産原価・仕入原価を商品構成の変更、外注の有効活用あるいは社内制作への移管などで切り下げる。
F管理システムや物流システムを見直し、製造固定費や販売管理固定費を徹底削減する。
G存続のため、場合によっては個人資産も含め、処分できる資産はすべて処分(換金)する。
H断腸の思いで、給与カット・自宅待機・人員整理などで人員規模の縮小を図る。
Iこれらのことにトップ主導で大至急取組み、現在の損益分岐点売上高を、今後予想される売上高でも収支均衡するように引き下げる。
実務ではもっともっといろいろな要素(複雑な感情や利害)も絡むので、作業はかなり大変なものとなる。ここに例示していない仕組みも、再生を実行する段階では適時組み入れなくてはいけない。
乱暴に再生の要点を絞ると、@資本・資金の供給源の確保ができるか、A全責任を背負って経営を再生しようとする人がいることと、その人を最後まで支える人がいるか、B売るものと売る相手(買っていただく魅力のあるものを持ち、買っていただけるお客様がいる)がいるか、これら3つが重要なポイントとなる。
自立し安定成長できる企業と従属し衰退する企業の差は、@トップから社員に至る人的要因、A経営管理・マーケティング管理・生産管理・財務管理・組織管理のマネジメント・スキル(技術)要因、B資本(資金)的要因などが大きな差として現れるものだ。好業績の背景には、現場の仕事の質、経営管理の質、トップの経営の質の差というものがある。そこにはベースに企業文化の差がある。その文化とは当たり前に繰返される日常性の質やレベルであり、その差が結果として大きなものとなっている。
この差はそう簡単に埋まるものではないから、歳月を重ね、地道なたくさんの努力と成果の積み重ねが必要だ。普段から私の意見を参考として聞き入れて下さるトップもいるのだが、ある経営者は、「教科書的な吉見のきれいごと、自分に関係のないお話の世界」と受け止める。私自身のいたらなさでもあるが、実に悔しいものである。
我社を本当に良くしようと思うなら、まず現状を冷静に客観的に分析し(見つめ)、足元が揺らいでいるなら真摯に自分が悪かったと反省し、迷惑をかけている関係者には心から詫び、改善目標をはっきりさせることから始めよう。そして優れたものを繰り返し真似て欲しい。キーワードは「模倣と反復」。